
視覚に障害のある方たちと共に美術を楽しむ名古屋YWCA「アートな美」。
今回は名古屋市美術館主催の「視覚に障害のある人との鑑賞会」に出かけました。
2月7日土曜の午前。迎えてくれたのは黒い鉄板の「ハンマリングマン」。
写真の通りの巨大さで、手に持つハンマーが一定間隔で振り下ろされる仕掛けになっている。なかなかの迫力だが、それを見えない参加者にどう感じ取っていただくか。
ともあれ、ここで、視覚に障害のある参加者6人と同行者2人、ガイドを務めるボランティアとの顔合わせ。
いつもと勝手が違うのは、ガイドの中心は、名古屋市美術館で活動するボランティアの人たち8人。私たち「アートな美」の10人は、いわば補佐的パートナー。
ハンマリングマンの足元で、グループごとに自己紹介を終えると、常設展の会場へ。
◆〝3・11の祈り〟の作品を前に
今年も間もなく、3月11日がやってきます。
この日に鑑賞した作品のひとつは6曲屏風のこの大作でした。
平松礼二さんの日本画で作品名は「2011・311日本の祈り」。

こうした作品を前にしたとき、タイトルを先にお伝えするのかどうか時に迷うところです。実際に、何が描かれているか、ある程度説明してからタイトルを紹介したグループもありました。
一方で、参加者の方の中には、まずタイトルを知りたいという方も、もちろん、いらっしゃいました。彫刻のようにじかに触れて確かめられる作品のときには、「タイトルは言わないで」とおっしゃる方もいます。
迷う時には、タイトルを先にお伝えしてよいかどうか、当事者の方に、お尋ねすることが必要なのかもしれません。
このブログをお読みの方が、もしガイドになられたら、どうされますか? 何から始められますか? もちろん「これが正解!」などというやり方はあろうはずもありません。
さて、この日は、まずは、作品の大きさを感じていただこうと、屏風の端から端まで一緒に歩くことから始めたグループもありました。
一方で、作品から少し離れた正面の位置に置かれた長椅子に腰掛け、描かれているものの詳細な説明と、それに対する参加者からの問いかけへの応答に、たっぷりと時間を割いたグループもありました。
やりとりの一部を再現すると――
「一面が海。真ん中に大きな山が描かれています」
その山を「富士山だ」と言った人もいれば、「東北だから違うだろう」という声も。
富士山のなだらかな傾斜とは違う、急傾斜を実感してもらうため、参加者の両手に手を添えるようにして、山の形を説明したガイドも。

山肌には白梅と紅梅のように見える花が描かれている。
「山の上の方は500円玉よりも大きい紅梅の花で埋め尽くされています」
「下にはグリーンのベルト。薄桃色の小さな木がありますが、私には桜に思えます」
山を囲んでいる海のように見える部分のデザインも独特だ。
「波は大小のカーブで埋められている。イメージとしては、指紋のような文様を思い描いてもらったらいいかもしれません」
この日の参加者の中には、ご自身も作品を作っている彫刻家の男性もいた。
「あんまり直接的な表現だと『またか』になってしまう。多くの人に何らかのインパクトを与えるために、直接的ではなくとも不穏さだけを表すような表現を選ぶこともある」
抽象的な表現だから、説明役のボランティアにもわからない点はたくさんある。そこは正直に言葉で伝えるしかない。
「海だと、先ほど誰かが言ったところも、波にも見えれば、もしかしたら、空の雲にも、あるいは山脈の連なりのようにも見えてくる。それが何かは私にもわからない」
そうして、作品世界をゆっくりと共有していく……。
◆熟女に見えるが20代?
キスリングが描いた「ルネ・キスリング夫人の肖像」はどう見えたか。

赤毛のショートボブ?の女性は、ノースリーブの赤い服を着て、力感溢れる腕で頬杖をついている。しかも流し目だ。きわどい発言もおのずと出る。
「堅気の奥さんには見えない」
「熟女に見えるんですけど、描かれたときは20代だったそうです」
「へえ~」
「腕はムチムチしている」
この絵には、立体コピーも用意されていたが、参加者の男性はそれを手でなぞりながら言った。
「腕のむっちりした感じが、これじゃわからない」
20世紀初頭のパリでは、こういうタイプの女性が人気だったのだろうか。
◆陰影がつかみにくい
視覚に障害があるといっても、当然ながら見え方・見えにくさはさまざまだ。全盲の人もいれば、ロービジョン(弱視)の方も。どれぐらい見えているか、確かめながら鑑賞する。それも作品ごとの色調や明るさによっても変わってくる。
マルク・シャガールの「二重肖像」には、真っ白な服を着たモデルの女性と、背景には、彼女を描いているシャガール自身も描かれている。

弱視の人にとっては、この絵の背景は、暗い色調で見えづらい。特に手前の白が強いから、「全部が白く見えてしまう」と女性。
「首から下がきちんと描かれていないような気がする」
「白がはっきりしているようでいてボヤケているんですね」
「奥の男性は見えますか?」
「見えません」
ボランティアガイドが、少しずつ説明をしていくと、
「そう言われてみたら、見えるような……」。
◆フリーダ・カーロの作品に胸を痛める
参加者のひとりが「メキシコへ行きましょう」と促した。
名古屋市美術館の常設展には、メキシコ・ルネサンスと呼ばれた時代の作品も多くある。公共の建物の壁画を中心に展開された、芸術・文化の復興運動の作品群だ。

その中にはフリーダ・カーロの「死の仮面を被った少女」もある。
ハガキ大の小さな絵だが、死や悲しみを象徴するような面や花が描かれている。参加者との間でも、ボランティア同士でも、おのずと対話は広がり、深まっていく。
「女の子が両手で黄色い花を持っている」
「マリーゴールドかも。メキシコでは死者の棺に飾る花」
「そうなんだ。匂いが強いからね」
「生きている子なの? 死んでいる子なの? 」
フリーダ・カーロは若い時に、パイプが腰骨にまで貫通する事故に遭い、流産も何度かしている、と誰かが言えば、
「健康な自分だったなら、産むことができたであろう子を描いているのかもしれないね」。
五つか六つの作品を、それぞれのペースで見て回って、だいたい一時間半。
再びハンマリングマンのもとへ集まって、参加者の感想を聞いた。
中には「目が見えなくなって、美術館に行かなくなっていた」と話す女性もいた。
短い時間ではあったが、いつものように、絵画作品を通して、見える人も見えない人も、共に言葉を交わしながら、作品を味わう体験を楽しめた。
終わって、すぐ近くの御園座の裏手にある、とんかつの美味しい店でのランチへと、参加者とともに流れ、さらなる振り返りと交流を深めて解散した。
(「アートな美」新加入のK・N記)
会員になりませんか
名古屋YWCAではじめよう
・なにか、ボランティアをしたい
・自分で始めたいボランティアがある
ぜひ、名古屋YWCAにご相談ください。
052-961-7707
地下鉄栄5番出口から徒歩3分
名古屋YWCA